「なァにやってンだよ」


巨蟹宮の裏手、小さな面積のアスファルトの上で色様々に変化する火花が一つ。
赤、黄、緑、青と変化していく火花に照らされた顔はデスマスクの探していた恋人。


「花火…綺麗でしょ?」
「やるならやるって言えよ…」


探しちまったじゃねェか、とデスマスクは片手に構えた煙草の煙を吸い込み呆れた台詞と共に吐き出し、薄灰の煙が闇夜に漂う様をぼんやりと視線で追っていると、は自らの横に無造作に置かれた袋から細い棒を二本出し、一本を彼へと差し出した。


「あ?」
「デスもやろうよ」
「…なーんで俺が…」


そう悪態付きながらも、左手に持っていた煙草を唇にくわえ、から花火を受け取った。


「で、これで火付けりゃ良いのか?」
「そうそう。付いたら直ぐそっちに向けてね」


間違っても私に向けないでよ、と言うの表情は楽しげだった。
デスマスクは小さな蝋に点る火に花火の先を近付けると、数秒の後に色彩鮮やかな火花が散り始める。


「おー、おー、こりゃ派手だな」
「デスはそれ位が好きかなって思って」


先程が持っていた花火よりも派手に火花が散る。
二人はそうやって暫く新しい花火を取り出しては、様々に変化する火花を見つめては戯れ合い、遊んだ。





「はい、コレで締めね」


そう言ってが手渡したのは和紙の様な薄い紙を捻り合わせた如何にも弱い紙紐の様な物。
デスマスクは片眉を寄せ、手に持った紙紐を見つめた。


「…コレも花火なのか?」
「そうよ。線香花火」


同時に火種付けようよ、と提案するに促される儘に消え掛けている火へと紙紐の先を近付ける。
すると小さな茜色の火花が静かに散り始めた。


「派手な花火も好きだけど、コレはもっと好き」


ポツリと呟いたの表情は、何処か艶を含んでいた。
恐らくこのセンコウハナビという物の所為、とデスマスクは自分に言い聞かせる。
ポトリと、小さな茜色の珠が地へと落ちると途端に周囲は薄暗い空間が戻り、先程迄の明るさが嘘の様であった。


「…このセンコウハナビって言ったか?中々良いモンだな」


手に残った紙紐を持て余しながら言ったデスマスクはジーンズのポケットから煙草を取り出し、其れに火を付ける。
花火とは違うその火種は何の風情も感じられないな、とデスマスクは思った。


「さーて、部屋ン中戻るぞ」
「はーい」


水と使い終わった花火の入ったバケツを邪魔にならない所へと置くと、立ち上がるに右手を差し出す。
己の手より一回り以上も小さな手が握り返すと、不思議と安堵が自らに湧き起こる。


(…らしく無ェな…)


デスマスクは其れを隠す様に、軽く屈みの唇にキスを落とす。
は突如に起こり、更には優しいキスに驚いた様に瞬きを繰り返すとその表情を綻ばせる。


「…何か今日のデス優しい」
「別に何時もと同じだ」
「ふふっ…んじゃそういう事にしておく」


横を歩くはクスクスと笑い、デスマスクは本人に気付かれない様に苦笑いを浮かべる。


短い夏。
その中の夜を愛しい者と過ごせる時間が、何よりの幸せなのかも知れない。


(俺も重症、だな)


己の意外性を吸い込んだ紫煙と共に吐き出したデスマスクは、小さな手を包み込み巨蟹宮へと戻った。



fin.