カレンダーの一点に控えめに囲まれた日。


"五月三十日"


が忘れてはならない──否、忘れる筈が無い特別な一日。




A highest present




「サガ、カノン、居る?」


シンと静まりかえった双児宮。
はその奥、居住区に入り扉を控えめにノックする。

間も無くして、開けられた扉の向こうから現れた姿は、淡い海の様な色の髪を持つ青年だった。


「?」
「あ、カノン。おはよう、今日は早いのね?」
「あぁ…まぁな」


入れ、とカノンに促されは室内へと足を踏み入れる。
僅かに開いた窓から入り込む風に乗って、微かに心地良い香りが鼻腔を掠めた。
サガとカノンが好む香り─窓辺近くに置かれた香の匂いだ。


「サガはもう直ぐで帰ってくる筈だ」


先程迄座っていたのであろう、カノンはソファの上に無造作に置かれた本をテーブルの上へと置き其処へを招く。
は手に持っていた二つの紙袋を自らの傍に置きながら、ソファへと腰掛ける。


「…ソレは何だ?」
「ん?…秘密」


ふふ、と柔い笑みを浮かべるに、カノンは首を傾げるもこれ以上の詮索はしない方が良いと判断をした。
──この笑みは秘密の内容が良い事である、という事を知っているからだ。


「…?」
「あ、サガ!お帰りなさい」


キィ、と扉が開く音と同時にカノンと同じだが、穏やかさを更に含む声がを呼ぶ。
はその声に振り向きながら、微笑みを浮かべた。


「どうしたのだ?こんな朝早くから」
「ん、ちょっとね。此処に座って…ほら、カノンも」


は向かいに有る誰もまだ座っていないソファを示す。
当の本人達は互いに顔を見合わせながらも、その示された場所に各々腰を下ろした。

二人がきちんと其処へ座るのを見たは、傍に置いた一つの紙袋から、大きな箱を取り出しソレをテーブルに置く。


「えーと……」


箱の側面を開け、中から取り出されたのは香ばしく微かな甘みを含んだ香り。
全体的に濃い黒茶をしたその物体は見るからに美味しそうなガトーショコラ。
今朝早くから起きて、が焼き上げた物だ。


「…誕生日おめでとう、サガ、カノン」


ガトーショコラから二人へと視線を移したは、更に笑みを深め一番言いたかった言葉を紡ぐ。
当の二人は、初めは唖然としながらも、次第に言葉の意味に嬉しさを覚えたのか其々表情を緩めた。


「「…有難う、」」


二人の声が同時に響くと共に両頬に唇が軽く当てられる。
左側はサガの色。
右側はカノンの色。

視界一杯に入り込んだ二人の色に、は頬を赤らめ、誤魔化す様に立ち上がると簡素なキッチンへと向う。


「…二人共、コーヒーも飲む?」


気恥ずかしさから漸く出てきた言葉は、そんな普通の言葉だった。
それにカノンは隠しもせず笑い、サガはクスクスと忍び笑う。


「「あぁ、貰おうか」」


再度重なった二人の言葉に笑みを返しながらも、残る贈り物をどうやって渡そうか頭を悩ますであった。


─はまだ気付いていない。
自分達の為に、作ってくれた物も、用意してくれた物も嬉しい事だが。
唯一無二の兄弟を揃って祝ってくれた事が、何よりも極上の贈り物だという事を。

同じ血を分けた二人は、揃って愛しき相手の背を見つめると、また二人で同時に笑みを零した…─。




fin.