真っ青な海に浮かぶ、金色の塊が一つ。

少しでも夏の気分を味わいたいとは午後の休暇に海へと足を運んだのだが。

(な…何だろ…?)

聖域近くの海域は一般人の漁業や遊泳は禁止されている。
なのに何故か異質なモノがポツリと揺れる波間に浮かんでいた。

はその物体から目を離さない様に視線を留めながら、海辺へと近付くと差ほど深くない場所に浮かんでいたのは人。


「だ…っ、大丈夫ですか?!」


はその人が溺れてるものだと思い込み、その儘海へと駆け出す。
しかし近付けば近付く程、の心配は薄れていった。


「…ミロ?何…してるの?」


遠くから見えた金色はミロの豪奢な金髪が、水面に広がっていたから。
心地良さそうに双眸を閉じるミロの表情には訝しげに問うた。


「あぁ…か。いや…気持ち良さそうだなって思って」
「…で、浮いてるって訳?」


もやってみると良い、と屈託無く笑うミロに溜息一つ。


「…心配して損した」
「何が?」
「溺れてる人が居るって思ったの!」


バシャリと掌で掬い上げた海水をミロの顔へと掛け、はそっぽを向いてしまった。


「ははっ、そういう早とちりは昔から変わってないな、は」
「そういうミロだって突拍子も無い事いきなりやる所は変わってないよね」


何時までそうしてるつもり?とは無防備に晒されているミロの額に人差し指を当てる。
するとミロは喉奥を鳴らし笑いながら、漂わせていた身体を起こした。
長い金の髪からは水滴が滴り落ち、着ていた衣服は全身ずぶ濡れ。


「…ミロ。その儘で聖域に帰ったら怒られない?」
「…多分怒られる。ムウかサガ辺りに」


どうするかなぁ、と呑気にかますミロに苦笑を零す。
も自身の衣服が酷く濡れ、靴も脱がずに海へと入った故に直ぐに聖域に戻れる状態では無い。


「…少し乾かしてから戻るか?」
「…賛成」


二人は海から上がると、浜辺に流れ付き長時間陽に照らされ堅くなった、折れた大木の上に座る事にした。


「…そういえば、ミロとこうやって話すの久し振り」
「確かに…」


幼馴染だったミロが黄金聖闘士に、自分は彼等が守り居住する聖域に仕える女官として。
互いの立場が余りにも違い過ぎて、会話する所か顔を合わせる事すら最近では稀で有った。


「仕事には慣れたのか?」
「んー…取り敢えずは、ね。でも女官長に叱られてばっか」


まぁ、仕方無いわよね、とは呟く。
その横顔はミロが覚えていた幼馴染としての顔では無く─


「もうちょっと慣れたら…さ」
「うん…?」


すぅ、とミロが息を吸い込み明るい笑顔を作ると其れをへと向ける。


「…いや、やっぱ秘密」
「え…」


ミロの笑顔につられる様にして微笑んでいただが、ミロの台詞に呆気に取られつい口を開けた儘にしてしまう。
其れを見たミロは盛大に笑い、は頬を膨らませた。


「もー…ミロなんて知らない!」
「あ、いやごめんって!」


乾かす目的の服もそこそこに、は立ち上がってミロへと背中を向けてしまう。
足早に聖域へと戻ろうとするを、ミロは尚も忍び笑いしながら追い掛ける。


(…傍に居て欲しいから俺の専属になって貰う、なんて言ったらどんな顔するかな)


あの細い背中を抱き締めて囁いたら、などとミロは表情豊かな彼女の事を想う。
しかしその前にご機嫌斜めにしてしまったを宥める事にした。






fin.