安らぎ。
其れは人間全てに平等に与えられている喜び。
家族、恋人、時間…。
其れを拒絶するのは、愚かしい行為だ、と頭の中では思っていても。
其れを唯一の肉親に言われたとしても。



「サガ?」
「あぁ…すまない、考え事をしていた」


大きな瞳が私を覗き込む。
先程からこんな調子を繰り返しては、膨れるに苦笑を漏らす。


「さっきから考え事ばっか…今日はお休みでしょう?」


教皇補佐、というのは実に忙しい。
其れよりも忙しいのは女神と教皇なのでは有るが…。
折角取れた休日、共に過ごそうと伝えた際は心から喜んでいた。
そんな彼女は、私が執務の事を考えているとでも思ったのだろう。


「…サガ?」


返答を返さなかった私に、今度は心配そうに見上げてくる。
本当に表情がよく変わる…。


「…は私と居る時、どんな風に思う?」
「どんな風って…」


突拍子も無い私の質問に、は呆気に取られる。
其れもその筈、私も何故そう問うたのか解らない。
しかし聞いてみたい気もした…唯それだけなのかも知れない。


「…サガって忙しいじゃない?」
「…あぁ」
「だから一緒に居られる時間は凄く嬉しいし、落ち着く」
「そうか…」
「サガは?」


え?と今度は私が呆気に取られてしまう。
まさか聞き返してくるとは思っていなかった。


「私もと居られる時間は貴重な物だ…嬉しい」
「…嬉しいだけ?」
「………」
「あのね、サガ」


黙った私に畳み掛ける様にが言葉を続ける。
その表情は何処か悲しげに見えるのは気の所為では無い…筈。


「サガは自分に与えられる人間としての喜びを拒絶してるって…」
「…誰がそんな事を言った?」
「…カノンが。…心配してくれてた」
「カノンが…」


正直、アレがそんな事を言うとは…が、感想だ。
には優しく接していたカノンだ、そんな事を言うとは…。


「サガ…自分を責め過ぎ」
「しかし…拭い切れない程の罪を犯した私だ…」


今こうして生きている事も、ましてやお前をこの腕に抱き締める事すらも私には重過ぎる程の赦し。
それ以上に望む事は許されない…


「…サガ、責めてるばかりじゃダメなんだよ」
「…」
「赦す事も必要なんだよ…だから、沙織さんは貴方を、皆を赦してくれてる。其れが一番必要な事だから」


責めるよりも赦す事の必要さ。
私は赦されて良い存在なんだろうか?


「サガは必要な人。女神にとっても、他の聖闘士にもカノンや……私にとっても」
「……」
「私は貴方に安らぎを貰えてる。だからお返しもしたいの」
「お返し…か」


人に授ける事が多い私に授けられる物…


「貴方が満足するまで…ううん、満足してもそれ以上に安らぎを、愛をお返しするの」
「…」


思わず彼女の身体を抱き締める。
今の言葉はどれだけ私を救い、赦す事となるか…は知っていて言ったのだろうか。


「愛してるの、サガ…だから拒まないで」
「あぁ…全て受け止めよう、から貰えるモノは全て…」


──私も愛しているから。


その台詞は口付けと共に囁こう。

何時でも、何時までも。




fin.