ラーサーと共に神殿を急いで出た先はまるで地獄絵図の様で有った。 至る所に鉄の鎧を着たジャッジの姿。 神々しきこの都には相応しくない、無慈悲な冷たさ。 難民や教徒達に剣を振るい、鮮血が散るその様はラーサーには見ていられぬ状況だった。 「何故…何故!!止めて下さい!」 「ラーサー様!」 一際目立つ存在のザルガバースの姿を見、ラーサーが駆け出す。 止める間も無く己の横をすり抜けたラーサーを追い掛け、も何時でも武器を抜ける様に構えながら駆けていった。 「ザルガバース卿!無益な殺生は…」 「ベルガが暴走し………仕方が無いのです…」 「ラーサー様、お探ししましたぞ」 ザルガバースの後からガブラスが続く。 ガブラスの一段と低い声にラーサーは救いの手を求めるかの様に近付き乞うた。 「ガブラス!何故…」 「ヴェイン様がお呼びです、ラーサー様。これ以上の戦を求めぬのならば大人しくお戻り頂きたいのです」 「………本当ですね?」 ラーサーが見えぬ表情を窺う様に、ガブラスを見上げる。 暫く見つめ合いを交わすと、ラーサーが踵を返し見守っていたへと歩み寄った。 「さん…僕は戻ります。…アーシェさん達に…」 「誰かっ!誰か!!」 ラーサーの言葉を遮る様に神殿の方から叫びが上がる。 ラーサーと共には神殿へと駆け戻った。 「これは…!酷い…こんな…」 神殿の前には既に事切れた者が倒れていた。 神殿の中にはもう一人、ジャッジマスターが入っていく。 ラーサーとを追い掛ける様に、ガブラスとザルガバースも続いてくる。 「さぁ、ラーサー様…此方へ」 「少し…待って下さい」 ラーサーがとある人物の姿を見つけその者へと歩み寄る。 「アルシド…伝言が有ります」 「…何なりとどうぞ?」 「国と国が手を取り合えなくても、人は同じ夢を見る事が出来ます…だから、だから…」 「解った、アーシェ殿下に伝えておこう」 「…それと、さんを…お願いします」 アルシドと会話を終え、ラーサーがの前で一度立ち止まる。 はラーサーと視線を交わし、やがて神妙な顔付きの少年を励ます様に、薄く笑んだ。 「私の事なら大丈夫です、ラーサー様。…お気を付けて…」 「有難う、さん…」 ラーサーがガブラスとザルガバースを引き連れ、街並みを下って行く。 その姿が見えなくなる迄、は見送った。 「…大丈夫ですよ、彼も皇帝候補。芯は強い」 「…ですね…」 気付けば己の隣にはアルシドが立っている。 先程の秘書は何処か安全な場所に隠れているのであろう、此処には居なかった。 「う…うわぁぁぁぁっ」 「……行きますよ」 「えぇ」 神殿内から悲鳴が上がる。 アルシドと共には神殿の奥へと向かった。 「アナスタシス猊下!」 大僧正の周囲は僧服を纏った者が何人か倒れ込んでいた。 その中心に居る男は右手に特殊な形の剣を持ち、ジャッジマスターの証で有るマントを靡かせ佇んでいた。 「…ジャッジマスター・ベルガ…」 がポツリと呟く。 横に立つアルシドが構え始めた。 神殿内はベルガだけでは無く、数人のジャッジも居た。 彼等は皆とアルシドへと敵意を向けている。 「戦えるんですか?アルシド卿?」 「まぁ、それなりに…貴方こそお気を付け下さいよ」 が腰の剣を抜くのを合図にジャッジとの戦闘が始まる。 通路の入り口付近で有った為、簡単に挟み撃ちにされアルシドとは背中合わせに戦う事を余儀なくされた。 「やぁぁっ!!」 剣と剣がぶつかり合う音が響き、膠着する。 後ろではアルシドが二人のジャッジを倒し終え、再度外から響く悲鳴に視線を出口へと向けた。 「…くッ、行って下さいアルシド卿!中は私が…っ」 「…健闘を願いますよ」 アルシドが外へと駆けて行く。 は目の前のジャッジに気を向け直すと、剣を合わせている為にガラ空きの腹部へと蹴りを入れた。 続けてもう一人へと剣を薙ぎ払い、相手の剣を弾き飛ばすと迷わずに止めを刺す。 はアナスタシスとベルガの元へ駆け寄った。 「女の割にはよくやる……・よ」 「…お話が早いです事…ヴェインにでも聞いたのかしら?」 「…脱走兵が抵抗する場合は殺しても構わん、と命を受けている」 ベルガがに剣先を向ける。 も剣を握り直し、詰める頃合を見計らっていた。 「…ッ、やぁッ!」 ガキィン… 金属がぶつかり合う音が響く。 渾身の力を込め振り上げた剣はいとも簡単に弾き飛ばされ、隙の開いた脇腹へベルガの腕が飛んで来た。 「ぐっ…」 「其処で大人しくしているが良い…そうすれば見逃してやろう」 防具も無い腹部に拳を入れられ、は余りの激痛にその場へと倒れ込む。 手元に有る剣を握り直せない程に手は痙攣し脱力していて、激しい吐き気が彼女を襲う。 「…もう一度聞く。覇王の剣は何処に有る?」 「………」 「答えぬか。それなら楽になるが良い」 鮮血が舞う。 ベルガは何の躊躇も無くアナスタシスへと剣を振り被り、斬った。 その場に崩れ落ちたアナスタシスは小さな痙攣を繰り返し、やがて動かなくなった。 「……貴方は…法の番人では無いの…?」 が呟く。 歪みきったこの相手に、何も出来なかった自分に怒りを向ける様に。 「ヴェイン様が覇王となる為ならば、何とでも言われても構わん」 「…く…っ」 痛みを堪え、剣を握り直す。 立ち上がり歯を食い縛ると、再度ベルガに向かって斬り掛かった。 「何度やっても同じ事だ!!」 振り下ろされた一閃を交わす。 その隙に下方から剣を振り上げようとした刹那、の肩に超人的な速度で戻された剣先が刺さった。 「な…っ、貴方は…一体…?」 「フ……破魔石の御陰よ…」 背迄貫かれ、肩口から血液が流れ出る。 比例するかの様に身体中から力が抜け、崩れ落ちる。 「…ゼクトなんぞよりヴェイン様に付けば良かったものを…」 「…ッ、誰がヴェインなんぞに…」 目の前が急に真っ暗になる。 薄れていく意識の中、聞こえたのはバルフレアの声であった…─