『…の砕片を…』 (其れを使ってしまったら…) 『…クター……実験…』 (何故そんな事を…) 『……』 (…?だ、れ…) 「?」 (…聴き覚えが…有る…) 「……」 (ファム……ラ…) 「…ん…」 ピクリ、との手が動く。 ゆっくりと開かれる双眸は虚ろな光を宿し、焦点が定まらず彷徨う。 バルフレアは覗き込み、の頬へと手を伸ばすとそっと触れた。 「…ファムラン…?」 「…あぁ。…大丈夫か?」 漸くはっきりとした視界と意識に、目の前の人物を認識する。 心配の色をはっきりと映すバルフレアの表情にはゆっくりと瞬きすると身体を起こそうとした。 「痛っ…」 「馬鹿、止せ。まだ傷が塞がってない」 「傷……そっか…」 意識を失う前の記憶を取り戻した。 ベルガに右肩口を貫かれ、その儘倒れ込んだ事を。 「ベルガは…?」 「…倒したさ。奴は身体中破魔石を埋め込んでいた」 「破魔石…」 (そういえば破魔石の御陰、って言ってた…) 痛む右肩を押えながら、はバルフレアに言われる儘身体を寝かせた。 静かなこの空間の景色は覚えが有った。 神殿内の客室──数時間前迄ラーサーと共に居た部屋であった。 「…アルシド卿は?」 「多少の怪我はしていたが、自力で帰ったみたいだぜ」 「…皆は?」 「其々休んでる筈さ…お子様達はフランが見ている」 そっか、とが呟きバルフレアから天井へと視線を移す。 乾いた溜息を吐けば、痛みの波が襲い掛かり顔を歪めた。 「…無茶するなって言っただろう?」 「ゴメン…でも、守れなかった…」 「………」 「…もっと…強くなきゃいけないのかな…」 視界がぼやける。 瞼を閉じれば、目尻から耳へと温くも冷たいものが落ちる。 目の前で失われた命──其れを守る事が出来なかった自分への憤り。 は静かに涙を溢れさせた。 「…お前は無理し過ぎなんだよ…昔も今も」 「ファム…」 「…守ってやる。だから自分を責めるな」 バルフレアがの手を包む様に握り、零れ落ちた涙を指先で拭う。 優しいその指先に、は薄く笑みを浮かべた。 「…有難う、ファム…」 「…」 「ん…?」 久方に呼ばれた己の愛称に、ドキリと胸が鳴る。 バルフレアを見上げれば、ゆっくりと落ちてくる相手の顔には思わず目を閉じた。 「……っ…」 「……もう傍から離れんな…俺がおかしくなる」 唇に柔らかな感触が落ち、直ぐに離れる。 囁かれた言葉は鼓動を高鳴らせるのに十分な台詞だった。 「…ファム…?」 「…まぁ、ゆっくり休め。明日には出発する」 ポン、と頭を軽く叩かれるとバルフレアはベッド脇から立ち上がり、毛布をの首元迄掛け直す。 「後でお嬢ちゃんが来るって言ってたぜ」 「ん…解った」 「…お休み」 「お休み…ファムラン」 パタンと静かに締められた扉を見つめ、ゆっくりと息を吐く。 蘇るのはバルフレアの、切なさげな表情と言葉。 (……ファムラン…) 不意に襲ってきた睡魔にゆっくりと瞼を閉じる。 右手にはバルフレアの手の温もりが未だ残り、左手を其処へと重ねまどろんだ意識はその儘眠りへと落ちていった。 「…お早う、」 窓から差し込む光に眩しさを感じ、目を開けばフランが居た。 「お…おはよ…?」 何故フランが居るのか解らず、困惑しながらもはゆっくりと身体を起こした。 「…大丈夫な様ね?」 「え…あ…」 押し寄せていた痛みは無くなっていた。 は右肩に手を遣り触れてみるが、痛みの類は微塵も無くなっていた。 「…あの人に感謝する事ね…」 「…バルフレア…に?」 聞けば、夕食を終えた後から夜中迄ずっと付きっきりで看病をしていたバルフレア。 途中、何度も覚えたてで慣れぬ回復魔法を使い傷を癒していた。 流石に魔力も尽き、体力的にも厳しくなった姿を見、フランが代わったのだと言う。 「…有難う、フラン…」 「どう致しまして……好かれているわね」 「そ…っ」 「ふふ…準備が出来たら外へいらっしゃい」 「はーい…」 フランが部屋から出ていくのを見送り、ベッドから降りたは見慣れぬ物を見つけた。 "新しい服を用意しておいた" 六年以上も前から変わらぬ少し癖の有る文字。 小さなメモの下には真新しい衣服が一式用意され、昨日まで着用していた衣服は見当たらない。 (…アリガト) 白の半袖のチュニックに黒いショートパンツ。 編み上げのロングブーツまで用意され、新しい防具も傍に置いて有った。 衣服の生地は質も良く、何より動き易そうなデザイン。 の好みを熟知している様かの様な物だった。 「あ、!」 着替えを済ませ、外に出るとヴァンとパンネロが駆け寄って来る。 はお早う、と二人に挨拶をしバルフレアの元へと歩み寄った。 「…有難う、コレ」 「如何致しまして…どうだ?」 「ん、好みにピッタリで気に入った」 有難う、と再度笑みを含んで言えばバルフレアも柔く笑む。 「さて…これからアルケイディス迄向かう」 「……アルケイディス…」 「目的はドラクロア研究所だ」 飄々と言ってのけるバルフレアをは見つめた。 視線に気付いたバルフレアはの背をポン、と軽く叩くと歩き始める。 続いてフランやバッシュ達も歩き出した。 (…何時までも引きずっている訳にいかない、か…) はそう一人思い、悲しみを纏う神都を後にした─…