「うわぁ…」 ヴァンから漏れた一言で有る意味帝都は言い表せるだろう。 街を行き交う人は紳士淑女という言葉が正にピッタリ、と言わんばかりに洗練された衣服を身を纏い、歩く様も穏やかだ。 無論、中には他の都市から来た人間も含まれているが、やはり違いは一目で見て解る。 旧市街から続いていた階段を上がれば、其処は別世界の様で有った。 空中タクシー、高く聳え並ぶ建物、街の些細な箇所にも上品な細工や趣向。 全てがヴァンやパンネロが見てきた世界とは異質の物だった。 街の一角を眺めながら談笑するヴァンとパンネロ、バッシュ。 其れを微笑ましく眺めるアーシェ。 は二年振りの故郷を目を細め眺めた。 「…変わらないね、此処は」 「……表面上は、な」 隣のバルフレアへと小さく呟くと、返ってきた返事。 其れが何を意味しているのかは、深く聞かずとも解る。 「ヴァン、暫く別行動だ」 「えっ…」 ヴァンとは突如告げられたバルフレアの言葉に唖然とする。 「俺はちょっと用事が有る…後で合流しよう」 「あぁ、解った!」 了解を得たバルフレアは一行が向かおうとしていた方向とは別へと足を向ける。 「…あぁ、それとも連れて行くからな」 「えっ?あ…」 ヴァン達に付いて行こうとしたの腕をグイ、と引っ張りバルフレアは一行から引き離した。 「…何でも?」 「良いのよ…さ、行きましょう」 を連れて行ったバルフレアの行動が解らず首を傾げたヴァンにフランは静かに諭し、 一行は情報収集も兼ねて様々な店が並ぶ通りへと向って行った。 「…で、?」 「ん?」 「まだリーフは持っているか?」 ヴァン達がら大分離れた頃、バルフレアはへと問いかけた。 それに小さく首を振ったにバルフレアは苦笑とも取れる複雑な表情を浮かべた。 「まぁ、仕方無いな…あるルートでリーフを手に入れる。其れを…」 「バルフレアの旦那、お困りかい?」 バルフレアの言葉を遮る様に慣れた声が割り入ってきた。 「…ジュールさん」 「先程はどうも…さんもお変わりなく」 「、行くぞ」 「え?ちょっ…」 ジュールが現れた途端に、表情を歪ませたバルフレアが半ば強引にの腕を引く。 「大丈夫、旦那はまたオレの所に来るだろうさ…その時にまた」 ジュールが発した台詞に、が視線をバルフレアへと移すと彼の表情は僅かに悔しさの様な複雑な色を滲ませていた。 「…ねぇ、ファム?」 「……」 「ファムラン?」 腕を引かれる儘、早歩きで来た細い路地。 表通りと比べれば一通りは少ないものの、半ば強引に歩かされているこの格好は何とも居た堪れない気分になる。 「…何だ?」 「腕……ちゃんと付いて行くから」 静かに言ったの言葉に、渋々と言った様子でバルフレアは掴んでいた腕を開放する。 「…ジュールに深く関わろうとするな。奴は…」 「…?」 「…何でも無い。行くぞ」 (奴はお前に惚れているなんて言ったら…) 言葉を濁したバルフレアは小さく舌打ちをし、歩む事を再開した。今度はの歩調に合わせ、けれども少々早めに─。 次に前を歩くバルフレアの足が止まった周囲は、がジャッジ時代でも足を踏み入れた事の無い路地であった。 「此処で待っていろ、何か有れば助けを呼べ…直ぐに来る」 「ん、解った…待ってる」 そう言ってバルフレアは薄暗い雰囲気の建物の中へと入っていった。 小洒落た看板にはアルケイディス文字で"月光"と書いている。 店の外には幾つかの酒樽が置いてあり、酒場として営業されている様だ。 (でも…普通の酒場では無いわよね) は何か普通とは違う雰囲気を感じ取り、思うと近くの壁に背を預けバルフレアを待った。 空を見上げれば、空中タクシーが行き交い真っ青な空。 (故郷なのに…そうじゃない感じ…) 目を閉じれば、此処での生活が蘇る。 何もかもが遠い過去の様に。 「…ゼクト…」 ポツリと自然に零れた言葉。 二年前の出来事が、走馬灯の様にの脳内を駆け巡る。 「…??」 記憶に捕らわれていたを現実に戻したのはバルフレアの声であった。 「あ…ごめん…終わったの?」 「あぁ。…」 バルフレアの手の中にはリーフが九枚。 其れを一纏めにし、小さな皮袋へと仕舞うとバルフレアはへと呼びかけた。 「お前は……あぁ、いや。何でも無い」 「…ファム…?」 行くぞ、と足を進めたバルフレアの表情は曇っていた。 (…貴方の言いたい事は何となく解るけど…) バルフレアの背を見つめたは、来た道を引き返しながら彼の焦燥感を感じ取り、 飲み込まれた台詞に含まれた気遣いにただ黙る事しか出来なかった…─