「なぁ、ヴァン。来るのがやけに遅かったな?」


タクシーから降りてきたのは別行動を取っていたヴァン達。
バルフレアは好奇心旺盛なヴァンに向って『帝都見物していたのか?』と笑って問い掛ける。


「違うって、こっちへ来るのにリーフが居るって言うから…」


ヴァンの台詞にバルフレアとは一瞬顔を見合わせる。


「何だと?ジュールにリーフを預けた筈だぞ?」
「…まずいねぇ、ドラクロアにジャッジ隊が出動だよ」


ふらりとジュールが建物の影から現れ、一行の後ろから白々しい台詞と共に口を挟む。
一行はジュールへと視線を移し、ほら、と差し示された先─ドラクロアへと続くエレベーターの前では数人のジャッジの姿が在った。


「…俺達の情報を公安に幾らで売った?」


バルフレアの声のトーンが落ち、ジュールへと問い掛けられる。
二人は一行から少し離れた所で会話を交わす姿を他のメンバーは見つめていた。


「……顔色が良くないわね…?」
「えっ…?」


にそう静かに囁いたのはフラン。
気を利かせてくれているのか、傍に居るヴァン達には聞こえない程度の音量であった。


「そ、そうかな?」
「…彼と喧嘩でもしたの?」


彼も様子が変よ、とフランは言う。


「何も無いよ?…だから大丈夫」


は誤魔化す様に無理に作った笑顔でフランへと答える。
そして、話をはぐらかす様にヴァンとパンネロへと向き直った。


「リーフ集めるの大変だったでしょ?」
「あぁ、でも何か情報を交換するのって楽しかったから良いけどな!」


ヴァンの台詞に隣のパンネロははぁ、と一つ溜息を吐く。
そんな二人の様子にはクスクスと笑い、お疲れ様、と労わりの言葉を掛けた。


「行くぞ」


ジュールとの話しが終わったバルフレアが声を掛け、傍のタクシーガイドに小さく『例の場所まで』と伝える。
ガイドは静かに頷き、後部座席の扉を開くと一行へと入る様に促す。


先にヴァンとパンネロ、アーシェとバッシュが乗り込みフランとも続いて入る。
最後に乗ったバルフレアと共に扉が閉まり、タクシーは発進しだす。


「例の場所って?」
「ドラクロアだ。ジュールが根回しをしていてくれたよ」


ヴァンの問い掛けに腕を組んだバルフレアが呆れた溜息と共に答える。
其れを聞いたヴァンは『ふぅん…あの人って良い人なのかな?』と独り言の様に呟いた。






ドラクロア研究所へと乗り付けられたタクシーから駆け降りた一行。
警備の目を気にしてか、駆けた儘研究所へと侵入をする。
自分達を乗せていたエアタクシーは既に発着場から離れていた。


「…静か過ぎる」
「あぁ、妙だ。衛兵が居ない訳が無いんだが…」


一行が侵入を果たしたドラクロア内部はしん、と静まっていた。
今の帝国の最高機密機関と呼ばれる場には相応しくない程、警備の目が無い。
不審がる一行はバルフレアに促される形で上層階を目指し始めた。


「…!!」
「…っちだ!!」


エレベーターを降り第六十七層に着いた時、遠くから焦りを含む声が響く。
一行は周囲に気を向け、身構えながら進むと一つの部屋の前には衛兵が何人か倒れていた。


「…何だ…?」
「こっちだ、急げ!!」


自分達が進んで来た方からジャッジの声が響く。
一行は目の前の部屋へと踏み込むと、扉を閉め中の様子を探る事にした。


「…この部屋は…?」
「シドの研究室だ」


アーシェの呟きにバルフレアが答える。
無人の室内には幾つもの書類が床や机の上に散らばり、本棚は倒れ物色された後が所々に残っていた。


「先客が有ったんだわ。私達よりも荒っぽいようね」


フランが言う傍ら、バルフレアは数枚のレポートが残る机を見つめる。
バッシュは部屋の奥へと進み、室内の様子を一望する。

(…破魔石の原理と………体…?)

は足元に落ちていた一枚のレポートに視線を落とす。
破れ、きっちりと書き込まれているで有ろう文字は判別しにくく、辛うじて冒頭の文字が読める程度であった。


「上だ!上へ向ったぞ!」


扉の直ぐ傍でジャッジの声が響く。
室内に居た全員が扉へと向き直り、声が離れるのを待った。


「今動くのは危険だわ」
「敵さんの混乱を利用すれば良い…兎に角さっさとシドを探すぞ」


フランの注意を無視する様に、カードキーを持ったバルフレアが先へと促す。


「バルフ…」
「良いから行くぞ」


が止めようとした台詞も彼の言葉によって遮られた。
開いた扉の先にはジャッジの姿は無く、一行は研究室を後にする。


「…行きましょう、彼…焦っているのよ」
「…うん」


フランに促され、も研究室を後にする。
先客の為に厳重な警備体制が取られ始めたドラクロア内部は障壁が多い。
赤、青と交互に開けエレベーター迄そう遠くない筈の距離を迂回し一行は進んだ。



──ドラクロア研究所七十階。



「…此処も静かだな」


エレベーターを降りれば、薄暗い空間には人の姿は一人も無かった。
自分達の足音だけが響く静かな空間。
先行するバッシュが微かな物音に周囲へと視線を向けた時だった。

─ガンッ!!

一筋の剣閃がバッシュを襲う。
軽やかな身のこなしで一撃目をかわしたバッシュは相手の左腕を押さえる様に己の右腕を叩き付け、
互いに次の一手を繰り出す事を難しいものにさせた。


「…すまんな。シドの手先では無さそうだ」
「そうか、君が先客だな?」


二人は同時に攻撃の手を、防御の構えを解く。
先客の男がバッシュの後ろに居た他のメンバーへと視線を向けた時だった。


「…お前は…」


男の目がで止まり、微かに驚きに揺れる瞳。
当のは男に見覚えは無く、怪訝に相手を見つめ返した。


「…あぁ、惜しい男では有るがな」


不意に上の階から誰かに話し掛ける声が響く。
一行が階段へと視線を向けた時、男は其れを駆け上がって行く。
一行は後を追う様にして男と同じく階段を掛け上り始めた。

(…あの人は誰?)


「…知っている人?」


後ろからフランに問い掛けられる。
階段を上りながら、は首を振る。

「知らない…あの人は一体…?」


階段の先に待つ真実と過去。
破魔石との深い繋がりを持つ人物との対峙。
其々に思いを持ちながら、階段を駆け上がった…─