駆け上がった先には、"先客"と目的の人物─シド─が既に対峙していた。
遅れて姿を現した一行に視線を向けたシドはとある一人へと視線を鋭く向けた。


「強がってんじゃねぇよ…てめぇの歳を考えろ」
「今更何をしに来た、空賊風情が!」


厳しい言葉の掛け合い。
フランとアーシェはバルフレアの過去を知っている為に内心は穏やかなものでは無いだろう。
にとっては殊更、二人が争う事を嫌がりながらも止める事は出来ない。

──優しかったシド博士…。
其れを唯、純粋に憧れ追いかけたファムラン。

…それが何処で歯車が食い違ってしまったのだろう。


「……試そうと言うのだな?」


シドは"見えない何か"と会話する様に独り言を続け、一行へと視線を向ける。
その手には銃と、そして周囲を守るかの様に小さな飛行物体が浮遊する。


「…ベルガと同じよ!」


フランが特殊なミストを感じ取ったのだろう、そう叫ぶと隣のバルフレアは鋭い視線をシドへと向けながらも悔しげに唇を噛む。


「あんたもか……あんたもなのか?!」


バルフレアの痛々しい言葉にシドは口角を上げ嗤う。
小さな飛行物体─ルーク─がシドの周りをグルグルと回り、彼の手の銃が火を噴く。


──戦闘が始まったのだ。


一行は其々に武器を構え、戦いだす。
バルフレアとフランが巧みにルークの隙間を縫い、銃弾を矢を飛ばす。
しかし、シド自身も体に埋め込んだ破魔石の効果か、致命傷を与える事は出来ず衣服を掠るだけ。

アーシェとパンネロは回復魔法を唱え続けていてくれ、は補助魔法を唱えながらヴァン、バッシュと共に至近距離からの攻撃を繰り返す。


─剣を握る手が微かに震えている。


は自身を奮い立たせながらも、未だに迷っていた。


(シド博士……っ)


斬れるのか、自分に。
戦わなくてはならないのに、戦いたくない。


情の有る人間なら誰しもが思う事であろう。
ルークを一体ずつ削りながらも、は迷いの剣を振り翳す。


「…相変わらず甘いな、よ」


考えに囚われていたからだろうか。
一定の距離を保って捉えていた姿が無かった。
常人とは思えない程の速さでの背後に回ったシドは、低く呟きながら銃口を彼女へと向け引き金を引いた


「……ッ……!」


──しかし、訪れる筈の痛みが襲う事は無かった。
何時の間にか戦闘に参加していた先客の剣士が、銃を下から弾き上げ銃弾は空しく空へと飛ぶ。


「うおおおおおぉぉ!!」


ヴァンとバッシュが左右から渾身の剣閃をシドへと叩き込む。
不可思議なミストの膜によって全てが当たる事は無くても、其れは彼へと戦闘不能へと追い込む傷を負わせたのは確かだった。


─戦闘は終焉を迎えたのだった。


「はあぁぁぁっ!!」


剣士が双剣を携え、シドへと振り被ったその時だった。


「……手間を掛けたな、ヴェーネス」


バリアの様な物に吹き飛ばされた剣士を横目に、立ち上がったシドの傍らには黒い人間の様な影が浮かび上がる。
シドが呼んだ名前に著しい反応を見せたのはバルフレアであった。


「コイツがヴェーネスだと?!」


──ヴェーネス?

は聞き覚えのある単語に眉を寄せる。
昔、バルフレアが彼女に対して漏らした言葉であったからだ。
…まさか、この人間らしき影の名前だったとは─。


「歴史を人間の手に取り戻す………追って来い、空賊っ!」


シドの元に小型の飛空艇が近付き、彼は其れに乗り込むと奪われた二つの破魔石を手に飛び立ってしまった。
バルフレアの呟いた言葉は、酷く苛立たしさを含みそれでいて悔しさを含んでいた。
悔しさを覚えているのはバルフレアだけでは無いだろう。
アーシェやヴァンも複雑な表情を浮かべていた。

は上がった息を整える事も忘れ、弾き飛ばされた剣士の元へと近付いた。
──彼も、遠目に見ても分かる程の怪我を負っていたからだ。


「…大丈夫ですか?」
「……あぁ、平気だ。すまんな」


起き上がろうとする剣士に、はケアルを施した。
補助魔法で魔力を使っていた為に、残った魔力では其れが精一杯だった。
それでも、血止めの効果位にはなった様で剣士は立ち上がり、もう一度へと礼を述べる。


「お前は……」
「……?」


剣士の言い掛けた言葉に、首を傾げれば『いや、何でもない』と彼は言葉を遮った。
そして他のメンバー達へと歩み寄ると静かに言葉を掛ける。


「先程は失礼した……バーフォンハイムのレダス。…空賊だ」


そう自己紹介をしたレダスに面々の視線が注がれる。
も彼を見つめながら、とある言葉に引っ掛かりを覚える。


(空賊……にしては変、ね)


確か、彼はシドにこう言っていた筈だ。


『リヴァイアサンをやったのは神授の破魔石だな、まだあんな事を…』


(空賊がそんな事………まさか…)


"彼が生存している事を知っているか?"


ヴェインの言葉、レダスの言葉、己の記憶が瞬時に引き出され全てが交じり合う。


一人、彼の正体に気付いたは目の前の人物から視線を外し、俯く。
その様子をバルフレアが気付かぬ訳も無く…─


「……、行くぞ」


バルフレアの苛立ちを含んだ声にハッと顔を上げると、その瞳と視線が合う。


「…何を思っているのか知らないが…ボンヤリしてるな」
「…うん…」


一行は、バーフォンハイムへ向うべくレダスの飛空艇へと戻る事となった。


交じり合ったもう一つの過去。
全てを受け止めるべく、シドの残した言葉を追って港町へ。

─其処で何が起きるか、何を思う事になるのか予想する余裕は今の彼等には無かった…─。