──天陽の繭。 それは夜光の砕片や黄昏の破片とは比べ物にならない破魔石。 ギルヴェガンにてオキューリアという者達からアーシェに囁かれる覇王への道。 一行はシドに罠に掛けられた事を察し、”絶海の塔”の手がかりをレダスに聞きにバーフォンハイムへ戻った時だった。 「──グロセアエンジンは使い物にならん。停まった船は捨ててこい、乗組員が助かればいい」 レダスの部屋が騒がしい。 中に入るとリッキー、エルザ、ラズがバタバタと表に走って出ていく。 「リドルアナ大瀑布の付近で水上船団が遭難した。何の前触れもなく全機関停止…どうやら原因は強烈なミストの干渉だ」 調査の為にレダスが派遣した船団が遭難─。 原因がミストであれば、絶海の塔、強烈なミスト…天陽の繭がそこに存在しているのは確かなのであろう。 バッシュが点と点を繋ぎ合わせ、推測を立てる。 だが、そんな強烈なミストが漂うヤクトの地に行ける術がない。 バルフレアが苛立ちを隠しながらも諦めかけたその時だった。 「お前の船に組み込んでみろ。ヤクト対応型の飛空石らしい」 「これもドラクロアの戦利品かい?自分で使ってみたらどうだ」 「俺の飛空艇はビュエルバ製でな。規格が合わん」 バルフレアとレダスの険悪な雰囲気。 は内心穏やかではない気持ちで会話のやり取りを見つめる。 レダスはバルフレアの正体は知ってるが、逆は違う。 ただ単に空賊同志の嫌い合いかと思われたが、違う様で── 先に退室するバルフレアを追う様に部屋を後にしようとしたときだった。 「……故郷、ですか」 「………まぁ忘れられん場所ではあるな」 その言葉が意味するもの。 ジャッジ・ゼクトとして行った”痛み”の始まり。 余りにも重い一言に、は目を伏せ静かに部屋を出て行った。 「クポ!さん、お手伝いして欲しいクポ!」 「ノノ?私でいいの?」 「大丈夫クポ!こっちクポ!」 レダス邸を出て街並みを歩いていると、シュトラールの整備を任されているノノがに近付いてきた。 新しい飛行石を取り付けるのと同時に、どうしても手が足りない場所が有るらしくバルフレアとフランは何処かへ行ったっきりでノノは困っていた様だ。 (でも私もそんなに詳しくはないんだけど…) ジャッジ時代にある程度の知識は入れてあるが、緻密な作業は苦手だ。 シュトラールへ着いた一人と一匹は早速飛行石の取り付けにかかる。 「そこを持ち上げて欲しいクポ!」 「これ?よいしょ…っと」 エンジン部分に何やら付いているパーツをスパナで差したノノの言う通りに持ち上げる。 見た目に反して重量の有るそれが何の役割を果たすのかは解らない。 ──ジャッジ時代に入れた知識なぞ使い物にならない程にシュトラールのエンジン部分は入り組んでおり、彼自身がかなりの改良を加えているのだと解る。 ノノは素早く手に入れたばかりの飛行石を入れ替え、固定をする。 「もう大丈夫クポ、ゆっくり降ろして欲しいクポ!」 慎重にはパーツを下ろし元の位置へ。 後の調整はノノがするとの事で、はお役御免、と相成った。 「こら。素手でやるモンじゃねぇよ」 グロスで黒くなってしまった手をどうしようかと眺めていると、後ろから声がかかる。 顔を見ずとも解る、バルフレアの声だ。 「手洗ってこい、それじゃシュトラールの中に触れないぞ」 「はーい…」 確かターミナル内に手を洗える場所が有った筈、とは思い出しながらバルフレアの言う通りにする事にした。 その後ろではフランがクスクスと笑っている。 「…心配なのね、あの子の事が」 「無茶をするお嬢さんだからな。………なんだ、フラン」 「……大事にしてあげなさい、可愛い恋人を」 「なっ……」 (いつから気付いていたんだ?この相棒は…) 先日、お互いの気持ちを確かめ合い、確かに恋人という関係になった。 だが、それは二人だけの秘密であって、仲間達にバレる様な事をしていない筈だ。 勿論、もそうやって努力しているのが見える。 いつもと変わらない様にヴァンとパンネロの面倒を見、戦闘になればアーシェをかばうバッシュのフォロー。 一体何処にバレる要素が有ったか。 「全員揃ったか?そろそろ行くぞ」 今回は何時もの面子に加えてレダスも同行する。 ヴァンとバッシュとパンネロは必要な道具の買い出しを済ませ、レダスとアーシェは気難しい顔をお互いしながら会話を。 その後ろから手を洗ってきたが慌てて戻ってくる姿が見える。 一行は絶海の塔へ。 この先、失うモノが多いとも知らず、 ある者は天陽の繭を求めに。 ある者は過去の清算に。 ある者は逃げ続けた旅路の末路へ。 シュトラールの機体が浮き上がり、ヤクト・ナルドアへと飛び立った──