「ラモンです、宜しくお願いしますね」


──空中都市ビュエルバ。
空に浮かぶその街は周囲の景色に馴染むかの様に穏やかな美しい街並みを見せる。
バルフレアの飛空挺にて半日も経たない内に着いた一行はターミナルを始め、
街中に居る帝国兵から避ける様に移動を始めた所で外見に合わず妙に落ち着いた少年と出会った。


「…何か嫌な感じの坊ちゃんだな…」


ボソリと相棒に呟かれたバルフレアの言葉が耳に入ったは内心焦りを覚えていた。


(ラーサー王子……)


周囲の目を気にしながら辿り着いた魔石鉱の入り口、
薄暗く宵闇に誘うかの様にぽっかりと開くその先は平穏に最奥迄辿り着けない事を直感で感じ取る。
が思考を巡らせていると、やけに魔石鉱の警備に詳しいラモンの発言にバルフレアとバッシュは顔を見合わせる。

一行が魔石鉱に足を踏み入れると、中から鉱内から反響し響く声に身を硬くし近くの物陰へと身を潜める。

「念の為に伺うが、純度の高い魔石は、本国では無く─」
「全て秘密裏にヴェイン様の下へ」


聞いた事が有る、何かに覆われたくぐもった声─。
金色の兜を被り、間接が曲がり鉄と鉄が擦れ鳴る足音には息を呑んだ。

(ジャッジマスター……ギース…!)

その儘帝都に残れば己の上司になっていた人物。
二年振りに見るその者は記憶と全く変わらず、今まで抑えていた記憶が脳内を走馬灯の様に駆け巡り、軽い目眩を起こす。

オンドール侯とジャッジマスターの一行が魔石鉱から出たのを確認すると、一向はそれとは逆に奥を目指し中へと足を進める。
軽い目眩を起こしつつも足を踏み出すの微かに狂った足取りにバッシュは気付き、隣を歩きながら小さな声を紡ぐ。


「大丈夫か…?目眩でも起こしているのか?」
「…大丈夫、です。暗さに慣れてないから足元が安定しないだけですから」


表情がはっきり見える訳でも無いのに、は仮初めの微笑を作り表情に張り付ける。
現に軽い症状だったので、直ぐに治まり今では常時と変わらぬ足取りで歩けるのをバッシュは確認すると、
『そうか』と納得し視線を前に歩くラモンへと向ける。


──魔石鉱内部は薄暗く湿った場所柄、蝙蝠や息絶えた者の亡骸に悪霊がとり憑き、
侵入者を攻撃する為に起き上がる骸骨等のモンスターが多く、一向は多少の苦戦を強いられた。

戦闘に慣れているバッシュやバルフレア、フランは変わらずだが、
ラモンや戦闘に不慣れなヴァンは息を切らせながら剣や小剣を腰に下げる鞘へ収める。
無論、戦闘から暫く離れていたも決して楽な状況でも無く、唯切れそうになる呼吸を押さえ平常を保っている。

(パンネロを助ける前に足手纏いなんかに…)

の負けず嫌いな性格がそうさせる。
隣のヴァンの表情を見、心情を思えば尚更…──

モンスターの対処や傷の回復にと気が忙しく動きながら魔石鉱の奥へと辿り着くと、
ラモンが真っ先に足元や壁、至る所に青白く光を放つ石に触れては感嘆の声を漏らす。


「何だ?」
「破魔石です……人口ですけどね」
「…はませき?」


ヴァンの質問に答えながらもラモンは至る所で光る破魔石に触れては別へと手を伸ばし、を繰り返す。
仕舞いには試作品だけど、と人造破魔石を腰のポケットから取り出し見せるラモンにバルフレアは少々苛ついた様ににじり寄り問いかける。


「…破魔石なんてカビ臭い伝説、誰から聞いた。何故ドラクロアの試作品を─…」
「おい…バルフレア…」
「……?何の…音?」


が微かに聞こえるジャリ、とした音に振り返るとその先にはバッガモナンとその一味がニヤついた笑みを浮かべ近寄って来る。
見れば、一緒に居る筈のパンネロの姿が無い事にヴァンが一歩前へと踏み出し叫ぶ。


「この野郎!パンネロは何処だ!」
「あァ?餌はもう必要無いからな、途中で放してやったら泣きながら飛ンで逃げて行きやがったぜ!」
「なんで……っ」


─カランっ─


先程迄ラモンが持っていた筈の人造破魔石がバッガモナンの顔へと投げ付けられる。
皆の注意が其方に向いている隙にラモンは来た道を駆け出して行く。


「逃がすか!」


一瞬の隙を付き、ラモンを追い掛ける様に走り出した一行、それを武器をけたたましく鳴り響かせながら追い掛けてくるバッガモナン一味。
前後に気を使いながら可能な限り走りながらヴァンはバルフレアに問いかける。


「おい…っ、いいのかよ、アレ?」
「こういうのは適当にあしらってズラかるのが得策なんだ」


…空賊はそういうモンよね…

は頭の隅でそう呟きながら前を走るラモンを追い掛ける。
隣を走るバッシュが剣を抜くと頭上を飛び回るモンスターを一撃の元に葬り去っていく。



息を切らしながらも入り口付近迄逃げ延びた一行は追尾者を撒けた事に安堵しながらも、先を行ったラモンを追い掛ける。
漸く光照らす外へと出た先には先程のオンドール候、ジャッジマスター・ギース等とラモンは接触し、その中にはパンネロの姿も有った。


「パ…っ」
「静かにして、ヴァン。気付かれちゃう」
「何でパンネロが─…何考えてるんだよ、ラモン」
「ラモンじゃない。ラーサー・ファルナス・ソリドール。皇帝の四男坊…ヴェインの弟だ」
「あいつ!」


怒りの矛先がラモン─ラーサーに向かったヴァンを宥めながら、パンネロの手を取り去って行くラーサーとパンネロを見つめながら、は小さく溜息をつく。


「…子守りも大変ね…」


小さく耳元で囁かれたフランの言葉に困り果てた苦笑を漏らすと、ヴァンの口を押さえていた手を開放し空を見上げる。
その横ではバルフレアが袖口の汚れを掃いながら、を見つめ、言い掛けそうになる言葉を溜息として吐き出す。




─この時、思い出が現実に再び現れる事等知らずに居た…─