『オレがダルマスカのバッシュ・フォン・ローゼンバーグ将軍だ!!』


遠くから聞こえるヴァンが高々と言い放つ”バッシュは生きている”という事実。
ヴァンの周りに居る住人は驚いた様に声の主を見、皆一様言葉を掛ける。


「…アイツは本当に能天気なのかなんなのか…」


魔石鉱の入り口前、噴水広場にて待つヴァンを除いた四人は遠くに見えるヴァンの姿を見守る様に見つめる。
小さく呆れた様に呟くバルフレアに相棒のヴィエラ─フランは何か思い出す様にクスリと笑みを零す。


「…アナタも昔はあんな感じだったわ…」
「やめてくれ。何度も言うがアイツは俺とは全然違う」


二人の遣り取りを何処か遠くに聞きながら、はボンヤリと思い耽っていた。

(ラーサー様に…ギース。…帝国と関係が全く無い状況では無いわね…)

本来なら記憶の奥底に閉じ込めた筈の現実。
元ジャッジ、等と今このメンバーにバレてしまったら、何を言われるかすら読めない状況。
はビュエルバに来てからずっと気を張り詰めた状況だった。
ヴァンの保護者的に付いて来て、目の前には自分の元々の主君や上司─…

次々と嫌な思い出を蘇らせる様に移り行く状況に。
今は何も行動を起こせずに居るからなのか、気が多少抜け緊張や魔石鉱を走り逃げた疲労がどっとの体を襲う。


「…顔色悪ぃな」


格段と低く聞こえるバルフレアの声。
眉根を寄せ訝しげに自分を見つめる相手に苦笑を浮かべは首を振る。


「そんな事無いですよ?全然元気ですし」


わざと笑顔を作り見せ、自分に向いた注意を散らそうとする。
しかし、自分が思った以上に疲労はを襲い、足元をフラつかせる。


「それでか?嘘は止めておくんだな。逆に足手纏いになる」


腰に付けて有る小さな水筒をに向け投げ渡すと、飲め、と短く言う。
ソレを受け取ったは複雑な表情を浮かべながら、水筒とバルフレアを交互に見つめると水筒の蓋を緩める。


「……有難う御座います…」


軽く頭を下げ、水筒に唇を当て決して多くは無い中身を喉へと流し込む。
補充してから幾らか時間が経って居るのだろう、冷たさは微塵も感じられぬ温い水では有ったがの体力を少々回復するには十分だった。


「、ちょっと来い」


返そうと思い、水筒の口を持っていた小さなハンカチで拭っていたにバルフレアはバッシュとフランから離れる様に噴水の近くへと足を進める。
口をしっかりと閉めた水筒を持ちながら自分を呼ぶバルフレアの近くへ小走りに向かうと、
水筒を返しながら何を言われるのか、と思考を巡らせる。


「……お前、誰からその剣術を習った?」
「え…?」


ドキリ、とした。


「時折だったが…帝国のヤツ共が持つ癖によく似ていた。…あんな癖はそう一般人が付くモンじゃねぇ」
「……それが私に有った、というんですか?」
「そうだ。言え、何故お前がそんな癖が有る?……まさか、元帝国兵です、って言うんじゃねぇよな?」


──怖い。

はそれだけ思った。
先程魔石鉱の奥でラモン─ラーサーに見せた瞳。
何か迷いを含みながらも冷たく研ぎ澄まされた瞳。


「……っ」


──駆け出していた。

思った時には既にバッシュとフランの前を通り過ぎ、バルフレアから逃げる様に走っていた。


「!!」


後ろでバッシュが自分を呼ぶ声が聞こえる。
けれど、追い掛けて来る様子も無い……当然だ。
今下手に動けばヴァンがしている事も、今迄身を潜める様に行動してきた意味も全て無くなってしまうのだから。


(ヴァン……!)

自然とヴァンの姿を探していた。
周りの者は自分を不審に見る。
必死に"何か"から逃げる様に走るを。



「─で、それで逃げたって訳ね…?」
「間違い無い、アイツは帝国と何か関わりを持っていた筈だ」
「…しかし…」


フランとバッシュは最後に話していたバルフレアに状況を聞いていた。
フランもバッシュも何処か曇った表情をしていた。
何かを飲み込む様に吐き出されたバッシュの言葉にバルフレアとフランは同時に顔を向ける。


「ヴァンは…彼女の事を随分と慕っていたぞ?現に帝国兵やスパイ等とは…」


─そう。
あの信頼は一週間やそこ等の短い間で生まれるモノでは無い。
それは長い間相棒を組んで来た二人にだって解る。
は今は帝国の関係者では無い事を。


「……クソ…っ」


苦いモノを吐き出す様に。
バルフレアはが消えた方を見つめ、表情を歪めた。




──暫く街中を走ってみるが、ヴァンの姿が見つからない。
走る足を緩め、は荒くなった息を抑える様に立ち止まり周囲をぐるりと見渡す。


「何処…行ってるんだろう……ヴァン……?!」
「…少し来て貰おうか?」


の真後ろには無機質な鉄の鎧を見に付けた帝国兵が二人立っていた。
反射的には腰に掛ける剣に手を掛け、威嚇する様に鋭く睨み付ける。


「だな?捕獲命令が出ている、大人しく来て貰うぞ」
「何で……っ」


──知っている筈が無い。
自分の姿と=が一致する事を知っている人物はそう多く無い。
両腕を二人の帝国兵に掴まれると、脱出は不可能─と悟ったは抵抗する事すらせずに促される儘に飛空挺ターミナルへと歩を進める。

(ヴァン……パンネロをお願いね…!)


チラリと振り返った先に。
驚愕の表情を浮かべたヴァンと合流したらしいバルフレア達の姿が有った。


「ーー!!」



悲しげに、憎む様な声で自分を呼ぶヴァンに答えられない儘、は唇を噛み締めターミナルへと姿を消した…─