「…誰が私を探しているの?それだけ教えて」 小型艇─アトモスに乗せられ、両手には鉄で出来た錠を掛けられた上に 持っていた武器を取り上げられたは隣でジッと自分を監視し続けるジャッジに問い掛ける。 ビュエルバで予想もしていなかった逮捕劇─いや、捕獲というべきなのか、と自らを小動物の様に例えあげた言葉には内心自嘲びた笑みを漏らす。 無論、そんなモノを表情に表せば何を言われされるか解ったモンじゃない。 暫く続いた無言の後、無情な鉄の下からくぐもったテナーの声が響いてくる。 「…ヴェイン様が探しておられる。大人しくしている事だ」 「ヴェ……っ」 ──何故。 自分が帝国に在籍していた時は殆どと言っていい程直接的な関わりが無かった筈。 有るとすれば、時折の軍事報告のみ……忙しいゼクトの代行で行った事が数回有るだけだ。 嫌だとは思いつつ、深い記憶の糸を辿ってみてもそれ以外に思いつく事は無い。 …ましてや己の素面を見せた事すら─… 「着いたぞ。早く出て貰おう」 グイ、と腕を強く引かれた反動で足元がフラつく。 余り安定しないアトモス内部の足場は未だ疲労が取れないの両足には少々負担が掛かる。 アトモスから降りると、数時間振りの外界の眩しさに目を細める。 …紛れも無い。 着いた先は二度と足を踏み入れまいと誓った帝都アルケイディス─ 豪華を嫌味の様に振舞う住居建物が並ぶその奥、政庁。 は政庁横の軍事飛空挺用のターミナルに降りた。 (ヴァン…パンネロと会えたのかしら…?) 「これからヴェイン様がお会いになる。…下手な事を考えると…」 「解ってるわ。それにこんな状態じゃ何も出来ないから安心しなさい」 思考を遮られる様に言い放たれた言葉に見た両手は冷たい鉄の錠にて拘束された儘。 微かに蠢く定かでは無い”恐怖”に口調が以前──ジャッジ時代の其れに変わる。 ─コンコン 「入れ」 横に居る男よりも更に少し高いテナーの声。 変わらぬ…優しげな響きの裏に何かを含む声。 「失礼致します…例の者、連行して参りました」 「ほぅ……=、だったな」 背筋が一瞬で凍り付く程の鋭い視線。 威勢で噛み殺してきた"恐怖"が紛れも無い形を形成し、を絶えず襲う。 「フ……そんな怖い目をしなくても良い。抹殺指令等を出したつもりも無い」 「…なら何故、今頃になって私を捕らえたのでしょうか?」 「……知りたいか?」 後ろ手に手を組み、窓の外を眺めるヴェインは横顔だけをに見せる。 「一つ二つ……聞きたい事が有ってね……シドもそろそろ来る筈だ」 その言葉を待っていた様に自分達が歩いて着た廊下にコツコツと小気味の良い足音が響く。 「どうやら捕らえた様だな?」 ノックもせずに部屋へ入って来た老人─というにはまだ若い、 眼鏡の奥に光るその瞳は野心を丸出しに表す、ドクターシドがに一瞥を投げ掛ける。 「お前は下がって良い…ご苦労だったな」 「御意…」 の横に居たジャッジはアルケイディア式の礼をヴェインとシドにしていくと素早く室内を出ていく。 シン、と静まり帰った部屋の空気が痛く感じる。 今迄背を向けていたヴェインはゆっくりとへと向き直り、恐怖を煽るかの様にゆっくりとに近付いて行く。 「……もう二年になる、か…」 小さく呟かれた言葉にの体は硬直し、ヴェインをジっと見据える。 …否、そうする事しか出来ないのだ。 「ジャッジ・ゼクト…彼が生存している事を君は知っているか?」 「!!生きているのですか?」 ──あの爆発だ。 敵方は勿論、味方の約半数も建物ごと消し飛び、正直生存確認等殆ど出来ていなかったあの出来事。 そこらで囁かれていた『ゼクトは失踪した』も、実は爆発に巻き込まれ死亡したのでは無いかと、一部では噂になっていた。 「その様子じゃ知らん様だな…」 シドが興味無さ気に呟く。 ヴェインの視線が一瞬彼に向いたが、直ぐにへと戻される。 「…報告によると、君は空賊の一味と…ダルマスカの将軍と行動を共にしていたそうだな」 「……っ」 気付いていなかった。 ビュエルバに着いてからの数時間、ずっと監視されていたのだ。 ヴェインからの内密調査を与えられれば、何よりも其れを優先する事が義務付けられる。 ─そう。例え賞金首が掛かっている空賊や脱走した将軍が傍に居たとしても、だ。 「此処で取り引きをしようでは無いか…」 「待って!彼等は…」 「余り反抗するのは好ましくないな…」 一瞬だが、細められたヴェインの双眸に全身が鳥肌を浮かせる。 ──殺される── 獲物を前にしたかの様な鋭く冷たい瞳にそう思わざるを得ない。 「ジャッジ・ギースの元に彼等は連れて行かれるだろう…暁の断片と共にな」 「暁の断片……?」 「神授の破魔石の事じゃ」 「……!」 夜光の砕片と同じ神授の破魔石…それは二年前のあの日、が使用する事を一度は止めた物。 グルグルとあの時の記憶、部屋の匂い、全てが色濃く思い出される。 「…まぁ、ギースが素直に持って来るとは思わん…だがそこで、だ」 ──嫌な予感がする。 そうの勘が頭の中で警鐘を鳴らす。 「どうだ?暁の断片と君を交換、という風に言えば彼等は素直に渡すであろう?アーシェ殿下もそこ迄非情では有るまい」 「……一つだけ言っておくわ」 「…何だ…?」 「二人は兎も角、バルフレアやバッシュは知り合ってそう時間も経ってない。そんな情を果たして掛けるのかしら?」 「…心配無い。よ」 暫く口を閉ざしていたシドが口を挟む。 が首を向けると、シドの口元は歪んだ弧を描き、クツクツと喉を鳴らし嗤う。 「将軍なら兎も角…あの空賊はお前もよく知っている人物……逃げて儂を絶望させた……お前の同期でも有った奴だ」 「………!」 ─予感が的中した。 彼の愛機のシュトラール……アレは試作機で有り、使えないと判断した為に彼が引き取ったというのも同僚の技師に聞いていた。 姿形、エンジン共に改造された為か確信は持てなかったが、やはりそうなのだと。 「…君の正体を知れば…彼はどうするだろうか…?」 一層低く耳元で囁かれた言葉がに痛い程の反響を持って響く。 何時の間にか近付かれ、耳元に有るヴェインの唇が『生か死か…』と小さく動く。 迷惑は掛けたくない。 けれど、一つの目的が出来た以上、今此処で死ぬ訳にも行かない。 (ゼクト……バルフレア…) 今此処で何もする事の出来ない悔しさに瞳を閉じたの脳裏には昔の同僚で有ったジャッジの姿 ──そしてジャッジ・ゼクトの姿が蘇っていた。 ──これより数時間後、落ち着かぬ記憶と気持ちを抱いた儘、軍機に乗せられシヴァへと移動する事になる。