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「私はこのラバナスタに来る前はジャッジだった。…でも、有る出来事をきっかけに私はその立場から逃げ出した」 ──王都ラバナスタ。 一行はリヴァイアサンを脱出後、ラバナスタへと辿り付きバザー通りの奥にひっそりと有る建物の中で話し合いを兼ねて一息付いていた。 同時に、布で隠していたリュールの両手の手枷をバッシュが剣先で肌を傷付けぬ様に壊しながら、リュールの話す内容に皆耳を傾けていた。 「…ラバナスタに来る前って事は…二年前まで?」 パンネロがリュールの横から問いかける。 小さく頷いたリュールを見つめ、バッシュとバルフレアは互いに何か言いたげに、言葉を飲み込んでいた。 「…帝国の艦隊を消し飛ばしたのは"暁の断片"なのだな?」 「察しが良いな」 「あの桁違いの破壊力──心当たりが有る。アーシェ様もご存知の筈です」 「…ナブディス─」 一瞬の沈黙が訪れる。 リュールは痣の残る手首を擦りながら、其処に居る全員の顔を見渡した。 「…そう、あれは夜光の砕片による爆発だと思います。リヴァイアサンも…」 「…何故断言出来る?」 バルフレアに睨みを効かし問いかけられるとリュールは彼から視線を逸らし、目を伏せる。 「……バルフレア。リュールの話してくれた事が今の会話に繋がるわ…ね?」 不意に嗜める様に言い、同意を促す様に自分を見つめるフランと視線を合わし小さく頷く。 言葉で言うのは簡単だが、此処には其れを言う事で傷付き、憎しみを持つ人間が少なくとも二人は居る。 其れが解るからこそリュールは言葉を選びつつ、話していたのをフランは感じ取っていた。 「─ガリフなら、或いは。古い暮らしを守るガリフの里には魔石の伝承が語り継がれているわ。彼らなら…」 リュールは彼女達を会話を何処か遠くで聞いていた。 自分は付いていって良いものかと、敵で有った自分が居る余裕は今のこの全員の中に有るのかと─。 「…、リュール?」 「え…はい?」 気付けばバッシュが心配そうに顔を覗き込んでいる。 ずっと呼び掛けていたのに返答が無いリュールに大丈夫か?と労わりの言葉を掛けられると、苦笑を浮かべながら頷く。 「ガリフの里へ行く…が、その前に休息を取る事になった。明日の早朝に出発だから…」 「あ…はい、解りました…」 バッシュを先頭に次々とメンバーが部屋を出て行く。 バルフレアに問いかけられた事に考え込むヴァンと共にリュールは部屋を出ると、日差しの眩しさに一瞬目眩を覚える。 「それじゃあ夜迄自由行動だ。良いか?目立つ行動だけは控えてくれよ?」 「解ってるさ!行こう、パンネロ、リュール」 ヴァンが早く早く、と手招きするのに促されリュールは二人に付いていく。 「行こう…って何処へ?」 「ミゲロさんの所だよ!まだパンネロ助けた事、言ってないんだ」 「あ、そっか…」 虚ろに返されたリュールの返事にヴァンは軽く首を傾げるも、パンネロの手を引いて道具屋迄の道程をスタスタと歩いていく。 リュールは離れない様に二人の後を付いていく。 そうして辿り付いた道具屋に入ると店の奥で品物整理をしていたミゲロへと駆け寄る。 「おぉ、パンネロ!無事だったんだな!」 「心配掛けちゃって御免なさい、ミゲロさん……でも、また直ぐに行かなきゃいけないの」 今迄有った事、そしてこれからの事を手短にミゲロへと伝えたヴァンとパンネロはジッと、悩ましく俯くミゲロを見つめ返事を待つ。 「…そうか、お前達ももうそんな歳になるのだな……まぁ、存分に外の世界を見て来なさい」 「…ミゲロさん、有難う!」 喜びの余りにパンネロはミゲロに飛び付き、何度も有難う、と伝える様子を見ながらヴァンは安心した様に笑う。 リュールもつられる様に安堵の息を付くと、急に自分に向き直ったミゲロに瞬きを繰り返す。 「リュール、二人を宜しく頼むぞ」 「え、えぇ…解りました」 それと、とカウンターの奥からチャラ、と音が鳴る布で出来た小袋を取り出してくるとそれをリュールに渡す。 「今月の給料だよ。少し多めにしておいたから…軍資金にでもしなさい」 自分の働いた分よりも少し多めに入った小袋を丁寧に両手で受け取ると、 何か暖かいモノを不意に感じたリュールは目頭を熱くさせながらもお辞儀をする。 「有難う御座います…ミゲロさん!」 顔を上げた先には何時もと変わらぬ笑みを浮かべたミゲロと、 気遣いの証─ポーションや毒消しの入った紙袋を抱えたパンネロとヴァンも笑んでいた。 「さて…気を付けていっておいで」 「はい!行ってきます!」 元気な返事を返す二人に続いてリュールも店を出る。 自分より少し先を歩く二人を見つめ、リュールは小さく溜息を付いた。 「リュール、どうしたんだ?」 「…バッシュさん…」 「呼び捨てで構わないさ」 さん付けで呼ばれた事に苦笑を漏らすとバッシュはリュールの横へと並ぶ。 陽が落ちひんやりとした風を受ける事が出来るこの宿屋のテラスは昼間の喧騒が窺えない程静かになった街並みを眺める事が出来る。 「…リヴァイアサンで会った時から元気が無いな」 どうしたんだ?と問いかけてくるバッシュの瞳は優しさを湛えていて、今のリュールでは思わず視線を逸らしてしまう程だった。 「…私、このまま皆と一緒に居て良いんでしょうか?」 「…どうしてそう思う?」 「だって……私は…」 其処迄言って、リュールは手摺りに置いた両手に顔を埋める。 何かを言おうとすれば、今迄抑えていた感情が全てドッと出てしまう様な気がして、言葉を紡げなかった。 「…確かに我々は帝国に反している。だけど、それは違う相手にであって、君では無い筈だ」 「………」 「…ビュエルバで君がジャッジに連れて行かれる様を見てヴァンは酷く困惑していたのは事実だ。…でも、君が居ない間、彼は何て言ってたと思う?」 「ヴァンが…?」 リュールは問いかけられた事を考えようと思考を巡らせていると、直ぐクスクスとした小さな笑いが聞こえてきた。 「…『これで助けなきゃいけないのが二人になった。どんな理由が有っても、リュールとパンネロは絶対に助け出す』と」 「……どんな理由が有っても…」 「その前にバルフレアが言っていた、リュールは多分元帝国兵だと。其れを聞いたヴァンは…」 「…何て言ってたんですか?」 返答が気になり、顔を上げたリュールの視界には柔く笑んだバッシュの表情が映った。 「…それでもリュールはリュールなんだから、そういうの関係無い、と言っていたな」 「……ヴァン……」 ─ポタリ、と。 木製の手摺りに一滴染み込む涙。 悩んでいた事への安堵に、堪えられなかった涙が止まらなくなった。 ポンポン、と軽く頭を撫でたバッシュの手が不意に離れると、隣からその気配が消える。 入れ替わる様に、カツ、と小気味の良い靴音がリュールの隣で止まった。 「……リュール」 「…バルフレア………」 ─お前の同期でもあった…─ 不意にシドの言葉が蘇る。 布の擦る音が聞こえ、頭上に気配を感じるとリュールは反射的に身を固くさせた。 「…リュー、だろ?」 「……ファム…」 「…懐かしいな、その名で呼ばれるのも…」 何処か切なそうに聞こえるバルフレアの声。 止まらぬ涙に顔を上げる事も出来ぬが、きっと彼の表情は何時もの余裕な笑みとはまた違うモノだろう──そうリュールは思った。 「…一緒に来いよ、リュー」 「うん……」 「誰も、お前を憎んでるとかは無いさ…」 「…バッシュも同じ事言ってた…」 「だから……もう泣くんじゃねぇ…」 先程と同じ様に、頭の上に暖かい掌が乗る。 何処か懐かしさを感じさせる温度に、リュールの涙は何時しか止まっていた。 きっと赤くなっているであろう目元と涙を拭う様に、目を擦ると横から真っ白なハンカチが差し出された。 「昔っから変わってねぇな、リューは」 「…ファムは少し変わった」 「……そうか?」 「こうやって直ぐにハンカチなんて貸してくれなかったもの」 呆れた様に笑うバルフレアからハンカチを受け取ると、其れで涙を拭い漸く顔を上げバルフレアと視線を交わす。 照れた様に笑うリュールを見、バルフレアは目を細めると大きく開かれた儘の窓へと身体を向ける。 「夕飯だとよ……早く来ないとリュールの分も食べちまうってヴァンが言ってたぜ」 「私の分までって…」 クスクスと笑うリュールを見、バルフレアは一仕事を終えた時の様に笑みを零すと部屋の中へと足を踏み出す。 「バルフレア」 「…ん?」 「…有難う」 洗って返すね、と手に持っていたハンカチを軽く振りながら、リュールは先に歩き出したバルフレアを追い越し、室内へと入る。 ヴァンとパンネロによる賑やかな会話が聞こえるダイニング迄、階段を下りれば直ぐ─ リュールは後ろを歩くバルフレアにもう一度小さく、感謝の言葉を述べたのであった…─