ゴルモア大森林。 大きく広がる森の海は出口など簡単に窺う事が出来なく、木々が風に揺れ奏でる葉の音が寂しげに鳴いている。 ぽっかりと開いた森の入り口には青色の文様が描かれた結界が張られ、侵入者を拒んでいた。 「何だ、これ…」 「ゴルモアの森が拒んでいるのよ」 「私達を?」 「私を…かしらね」 アーシェの問いに答えたフランの表情は何処か物憂げであった。 森の一角へ進み始めるフランとバルフレアに一行は不思議に思いながらも付いていく。 「寄ってくんだな」 「えぇ」 「過去は捨てたんじゃないのか?」 フランとバルフレアに他より近い位置をついて歩くに二人の会話が小さくだが聞こえる。 他を寄せ付けぬ、相棒同士だからこそ出来る会話には聞いていない振りをする。 一角迄近付くと立ち止まった二人に適度な距離を置いても立ち止まる。 「貴方の為でも有るのよ…焦っているでしょう?貴方、以外と顔に出るのよ」 (この二人…) 言葉無くとも解る関係。 今の台詞で読み取ったは、二人から視線を外すと後ろから追い付いてきたヴァン達に顔を向ける。 「つまり…どういう事?」 「こういう事よ」 ヴァンの目の前でフランが指先で印を切る。 すると其処には緑色に光る道が現れ、奥へと続いていった。 「この森に暮らすヴィエラの力を借りるわ」 「此処ってフランの…」 「……今の私は招かれざる客よ」 低く呟いたフランの言葉は冷静ながらも、何処か寂しげであった。 「この先の里にミュリンという子が居るわ。呼んできて」 里の入り口で立ち止まるフランがヴァンにそう言う。 「フランは行かないの?」 そう問うたのは。 しかしフランは首を振るだけで足を進めようとはしなかった。 「…ヴァン、お願いするわ。私、フランさんと一緒に待ってる」 え?と唖然とするヴァンとパンネロには笑んで返す。 その後ろではバルフレアもがヴァン達に似た表情を浮かべているのを、は見て見ぬ振りをした。 「……良いの?一緒に行かなくて」 ヴァン達の後姿を見送りながらフランが静かに尋ねる。 は微笑を浮かべながら、フランの言葉に小さく頷いた。 「…良いの。フランが一人になっちゃうし…」 「…彼も一人、よ」 「……バルフレアの事?」 彼、という言葉にから笑みが消える。 変わらぬ表情の儘、言葉を紡ぐフランをは見上げた。 「……焦っているのよ、彼も。それを落ち着かせる事が出来るのは……貴方よ」 「そう……かな」 (でも…私は…彼の事、何も知らない) 見違える程変わったバルフレアの全てを知っているかと尋ねられたら…答えはノーだ。 否、初めから知らない事だらけだったのかも知れない。 そんな思いが駆け巡り、それ以上は言葉を続ける事が出来なかった。 「……、行くわよ…」 フランの周りを優しい風が一瞬包んだと思った矢先。 フランが断じて動こうとしなかった足を里へと向けた。 は唖然としながらも、フランの後を追う。 「…ミュリンは此処には居ないわ」 「…え?」 「森の声が…教えてくれたわ」 長く離れた自分に聞こえた小さく気を向けなければ聞き取れない位の微かな"声"。 里に入った二人を静かに、されど明確な拒否を乗せた眼差しを向けるヴィエラ達に御構い無し、という様にフランは里の奥へと進む。 (…静かな場所ね…) 木々のざわめきと動物の鳴き声。 それ以外の音は皆無に近い。 木々が奏でる音楽は、寂しく優しく鼓膜へと流れ込む。 「森の声が聞こえたの。この里にミュリンは居ないわ…ヨーテ、あの子は何処?」 フランがヨーテと呼んだ人物。 他のヴィエラよりも凛とした光を瞳に宿し、フランに何処か似ている女性が居た。 フランの言葉に厳しさを増す台詞に、ヴァンとパンネロは押し黙ってしまった。 「だから見捨てようってのか」 「……里の総意だ。ヴィエラは森と共に在らねばならん」 その言葉に顔を上げたヴァンが口を開く。 その瞳は優しさを帯び、強い意志を感じ取る事が出来た。 先程のフランと同じ様に、ヨーテが風を纏う。 ミュリンの居場所を告げると、ヨーテは立ち去ろうと一行に背を向けた。 「ヴィエラが森の一部だとしても、森はヴィエラの全てでは無いわ」 「…その言葉、五十年前にも聞いたな」 里の入り口迄戻ってきた一行は、ヒュムの穴──ヘネ魔石鉱へ向かうと決めていた。 ラーサーがヘネの説明をすると、バルフレアが辛辣に対応をする様が有り、は何処か苛立ちを覚えた。 (…そんな言い方しなくても…) 「…余り気を落とさないで下さい、ラーサー様」 「…有難う御座います、さん」 バルフレアの冷たい対応に少々翳った表情を浮かべるラーサーにはそっと囁く。 「…フランって何歳?」 ──ピシリ。 今の空気の音を例えるならそんな音だろう。 フランとバッシュは何も告げずに森へと入って行き、呆れ溜息を付くバルフレアとアーシェ。 一言ずつ、辛口のコメントを言うパンネロとラーサー。 其々にそんな対応をされ追い越され、戸惑うヴァンの背をは軽く押した。 「思っても其れだけは言わない方が良いわよ、ヴァン」 「…解ったよ…」 拗ねた様に頬を膨らませるヴァンと共に先行く者達を追い掛ける。 一行はゴルモアを一旦出、ヘネ魔石鉱へ。 次第に深み行く状況に、は不安を覚えていた。 (…何か…色んなモノを失くしそうな気が…) これから先、"逃げる"という言葉が、どれ程重要なモノだったかを知る由も無く─…