グラスの側面の雫がテーブルに小さな水溜りを作る。
溶けた氷が小さく鳴り、下へ下へと沈んでいく様は見ていて涼しさを与える。


──季節は夏。
此処ギリシャの夏は、日本と違って湿度は低い。
つい最近迄日本で生活していたは、あの湿度が高い故郷の夏を思い出しては此方の過ごし易さを実感していた。


「?どうした?」


意識を懐古に、視線を透き通るグラスに持って行かれているの頭上から低いながらもよく通る声が響く。
は顔ごと自らの上へと向け、声の主へニッコリと笑んでみせた。


「ちょっと日本の夏を思い出していたの」
「……ほぅ」


普段は鋭い視線を投げ掛ける、目の前の男の双眸が一瞬見開くと直ぐに細められる。
其れが笑んだ為と解るのにそう時間は掛からなかった。


「…帰りたいのか?」
「まさか。貴方が居ない故郷はきっとつまらないわ…シュラ」


そう平然と言ってのける愛しい相手に、シュラと呼ばれた相手は後ろからその細い肩へと両腕を回す。
気温が高く汗ばむこの季節でも、愛しい相手の体温ならまた別。
シュラはそっと髪を結い上げ、露にされているの項に唇を寄せた。


「っ…シュラ?擽ったい…」


適度に押し付けられた唇の滑る様は、に擽ったさを与えその身を捩って逃げようとする…が。


「…今日は放してくれないのね?」
「あぁ」


何時もなら直ぐに笑いながら拘束を解いてくれるこの恋人も、今日は簡単に逃げさせてはくれない。
更に肩を抱く掌に力が込められ、はその手の甲へと静かに唇を落とす。


「…今日は甘えん坊さんなのね、シュラ?」
「が嬉しい事を言ってくれたからな」


気付けば真横に有るシュラの顔。
熱情を含んだこの視線に捉えられれば、この夏の暑さなど比較にならない程に熱を覚える。
は本能の儘に瞼を伏せ、少し顔を傾ければ簡単に唇同士が重なる。


「ん…」


薄く唇を開けば、温かい舌が入り込む。
翻弄する其れを捕まえるのはにとって至難な業。
思う儘に出来ない呼吸に苦しさを覚える頃、漸く唇を離された。


「……シュラの馬鹿…」
「馬鹿でも結構」


クツクツと喉奥を鳴らし笑うシュラをは真っ赤になった顔を隠す事も忘れ睨み付けた。
──最も、其れすらシュラの熱を煽るだけの表情なのだが。


「来い、その熱をどうにかするのは俺の役目だ」


来い、という割にはの身体を簡単に抱き上げ寝室へと向かう。
はシュラの腕から伝わる優しい体温の熱に浮かされながら、これから始まる甘い時間に思いを馳せた。




fin.