「…眠いの?」
「………あぁ…」


日差しも穏やかになってきた春。
磨羯宮の裏に有る庭園にて、編み物をすると読書をするシュラ。
シュラは読んでいた本を閉じると、の肩へと凭れ掛かった。


「お休み、シュラ」


瞼を閉じた青年からは直ぐに規則正しい呼吸が漏れる。
は、糸を編む手を止めシュラの寝顔を盗み見た。


(…疲れていたのね…)


昨夜、外地任務から帰って来たばかりのシュラ。
一週間程、傍を離れていた所為か帰って来てから常にを触れられる位置に居る。
勿論、だって嫌な筈は無い。
愛しい相手に、久々に触れて貰える事の喜びは何にも変えようが無い。

止めていた手を動かし、作っていた物の仕上げへと取り掛かる。
が編んでいたのはブランケット。
少し小さめかも知れないが、シュラへと渡そうとしていた物。

端を強めに編み、切って短くなった糸を網目へと忍び込ませれば完成。

は起こさない様に注意を払いながら、肩に乗るシュラの頭をゆっくりと自らの膝の上へと乗せた。


「………ん……」


ピクリ、とシュラの手が動く。
起こしてしまったのかと、冷や冷やしながら様子を見るも其れはほんの一瞬だけだったらしい。

出来上がったばかりのブランケットをシュラの腹部に掛けると、は自己満足に笑んだ。


微かな風が花と緑の匂いを運んで来る。
暖かな日差しは、眠気をゆっくりと誘う。

は欠伸をすると、寝てしまわない様に糸を入れた籠から一冊の本を取り出し頁を捲る。
シュラから薦められた一冊の本。

の生活はシュラに色付けされていると言っても過言では無かった。
使う食器も、雑貨も何もかも全てシュラの好み。
其れに合わせて自分の好みも変わってしまうのだから、恋情とはなんという怖さか。




「…………?」


読んでいた本の半分程まで差し掛かった頃、膝の上から掠れた声が響く。


「…よく寝れた?」
「あぁ………」


覚醒しきっていないのか、瞳はまだぼんやりとしている。
は読んでいた本を籠へと入れると、青年の額に掛かる前髪に指を通し弄ぶ。


「……心地…良い…」


指が通る感触に、瞼を閉じたシュラはそう呟く。
まるで猫みたいだ、とは思い微笑みを漏らす。
シュラはじゃれる様に、の腰に両腕を回し抱き付く。


「シュラ?」
「…お前は柔らかいな…」


女性特有の体付きの事を言っているのだろうか。
それとも別の事なのだろうか。
は暫く考え込んだが、どちらでも良いと結論を出した矢先だった。


「、コレは…?」
「ブランケットよ、シュラの為にと」


青年は起き上がると、腹部に掛かっていた物を手に取りジッと其れを見つめる。
の返答に嬉しそうに笑みを零すと、彼女の体を抱き寄せる。


「…Gracias.」


不意に耳元で囁かれたのは、青年の母国語。
低い声で、滑らかに紡がれた言葉には笑んで返す。


「さて…戻るか?」
「そうね…」


名残惜しい気もするが、この様な時間はまた訪れるだろう。
二人は立ち上がり、磨羯宮へと戻った──。






fin.