「本当に良いのだな?」
「はい。……何か思い出せる切っ掛けになれば。足を引っ張ってしまうかも知れませんけど宜しくお願いします」


が共に行動すると決めた相手はウォーリアであった。
皆にを紹介したマーテリアが、誰についていくかを決めて欲しい、と言った矢先、ティナという少女がに声を掛けてくれたものの──


「…有難う、でも…」


どうせなら自分の使える物を最大限に生かしたい。
白魔法を使える自分にとって何が最適か。
本能がそう考えさせるのだろう。必然と剣士のウォーリアへと視線を向ける。


「うん、分かった。も気を付けて…またね」
「うん…有難う、ティナ」


一人歩き始めたウォーリアを追う様には塔を出る。
不意に後ろから足音が聞こえ振り返ると黒髪の青年とその後ろから白銀の鎧を身に纏う青年がついて来ていた。


「私たちの力をマーテリアが必要とした。その事実に一点の曇りもない」


足を止めたウォーリアが言うと、黒髪の青年ノクティスは後方の塔を見上げる。
白銀の鎧の青年─セシルはと目が合うと苦笑ともとれる微笑みを浮かべた。

目指すは地平線の向こうに見えるスピリタスドーム。

ウォーリアはただひたすら真っ直ぐ歩き出す。
その後ろを三人はついていくばかりであった。








「休息を取る」


無表情に告げられた言葉に一行は周囲を見渡す。
次元の扉をくぐり抜けた先に広がった景色は所々陥没した大地と暗く星が輝く空。
その彼方に青と緑、茶で彩られた球体。
水晶で作られた城の傍には黒い大きな船の様な物体が在った。


「ここは…セシルの記憶か?」
「うん…此処は月。僕の…もう一つの故郷を模した世界。あそこは月の民の館だよ」
「なんか…もう本当ムチャクチャだよな」


何で色んな奴の世界に来れるんだよ、とノクティスは溜息交じりに呟く。


「きっとマーテリアは皆の記憶から世界を作りだしているんだ…そうやって世界を広げている。前回も僕達の世界と同じ様な場所はいくつも有ったから」
「マジかよ……じゃあ、きっとオレの世界の偽物もどっかに在るって事かー…」


そんな二人を横目にウォーリアは一人で黙々と進み、岩々が連なる場の近くに腰を下ろせそうな場所を探した。


「、君は少し座るといい。疲労が見える」
「あ、はい……有難うございます」


それもそうだ。
少し進んでは彼等を模した人形の様な敵、イミテーションとの戦闘。
途中で次元の扉を抜けた先には、赤い水晶の前に佇む青年との戦闘。

戦闘続きで女子の体力ではついていくのもやっとだ。
道中、セシルが気遣ってくれるものの、迷惑をかけたくない思いから必死では歩みの早いウォーリアについていきながら
三人が傷を負えば魔法で癒す、といった行動サイクルを続けていた。


「……何か、思い出せたのだろうか」
「………いえ。残念ながら…」


三人の戦いを見て、どこか胸に引っかかる時は何度かあった。
特にウォーリアが戦う姿は遠い昔に見た事のある様な…─

しかしはっきりとそのヴィジョンが見えた訳でも無い。
は思い出せない、と言ったのはそれが自身の記憶なのか定かではないから明言を避けていた。


「……でも、貴方は…ウォーリアさんに会ったのは初めてではない……様な気が、します」
「私に?……もしや…は…」


ウォーリアには一つ気になっている事が有った。
それはの使う白魔法──魔法と一口に言っても、戦士達の使うそれは各々少し違う。
それは術者本人の魔力にもよるものだろうが、の使う魔法はウォーリアが居た世界のそれと似ていた。


「……いや、何でもない」
「……?」


失礼する、と言ってウォーリアがの隣、少し間を開けて腰掛ける。
セシルは空に浮かぶ球体──地球を見つめ。
ノクティスは地べたに座り水晶の城を眺めている。
それを静観していたウォーリアの横顔をは見つめていた。


(……とても綺麗な人。でも何処か懐かしさを覚える……何でだろう?)


が見つめているのに気付いたのか、不意にウォーリアの蒼の瞳と視線が絡む。
吸い込まれそうな程透き通る真っ直ぐな瞳。
は暫し言葉を発する事はおろか、視線を背ける事を忘れていた。


「…?」
「…あ、えーと、いえ、何でもないです…」


声を掛けられれば一気に顔に熱が集まりだす。
きっと自分の顔が赤くなっているだろう─は隠す様に俯き、そして立ち上がる。


「もう大丈夫です、行きましょうウォーリアさん」

そう言っては談笑を交わすセシルとノクティスを呼びに行く。
彼女の後ろ姿を見つめながら、ウォーリアは一人言葉を漏らす。


「…私も、君は懐かしさと……もう一つ思う事が有るようだ」



ふと思い出させるかつての仲間と、姫の姿。
それともう一人、儚くけれどもはっきりと浮かぶ女性の姿──


ウォーリアは郷愁に思いを馳せ、直ぐにいつもの凛とした佇まいに戻る。


「さぁ、行こう」



一行は揺らめく扉をくぐり抜け、月の渓谷を後にした。